2018/07/16

テーマが「硫黄島」だったサマーコンサート・・・複雑な気持ち

いつもですと、練習も本番も楽しくてたまらないコンサート♪
今回ばかりは、「私がこれを演奏していいのだろうか」という思いを抱きながらの参加でした。

独立記念日に近いため、愛国精神を煽る選曲の多いのがサマーコンサートです。
アメリカ国歌「星条旗よ永遠なれ」 を演奏することには、あまり違和感を覚えなくなってきましたが・・・

今年は、 Chris Brubeck 作曲の "Quiet Heroes" という4楽章から成るシンフォニーがメインでした。

舞台は、第二次大戦末期の1945年、激戦地となって日米両軍合わせて5万人近い戦死者・負傷者を出した硫黄島

アメリカ軍がやっとのことで占領した摺鉢山(すりばちやま)星条旗が立てられた時の写真「硫黄島の星条旗」は、アメリカ国民全体の士気を大いに高め、史上もっとも有名な報道写真のひとつとされています。


"Quiet Heroes" は、写真の中の6名(2名は陰に隠れてよくわかりませんが)の生い立ち、硫黄島での両軍の壮絶な戦いの様子、6名のその後のことを音楽とナレーションで描いた、45分もの長いシンフォニーです。

「真珠湾で米軍の艦船が沈められた恥辱を晴らした写真となった」とか、「衛生兵に対してさえ、日本軍は容赦なく攻撃を仕掛けた」といったナレーションを耳にすると、「ごめんなさい」と言いたくなり、何だか気が重くなってしまった。。。

ひょっとしたら冷たい視線を投げかけられたり、袋叩きにされるかもしれませんが(汗;)、私は日米両方の兵士たちへの鎮魂を込めて演奏しようと決め、練習に励みました。
初リハーサルでは、私の居心地悪さを察して、団員仲間がかえって気遣ってくれた様子。ほっ・・・


下の動画は第1楽章だけですが、アメリカ海兵隊バンドによる弦楽器なしバージョンの演奏です。


私たちのコンサートのナレーターも上の動画と同じく、俳優のウィルフォード・ブリムリー Wilford Brimley さん。
見たことあるお顔だな~と思ったら、30年ちょっと前に日本でもテレビで放送されていた「頑固じいさん孫3人(原題は Our House)」の主役のおじいちゃんだった方でした。


それから、「コクーン Cocoonという同時期の映画にも出演されていました!
老人ホームのいたずらトリオが、中で宇宙人が眠る大きな繭の沈んでいるプールに入ると若返ってすっかり元気になってしまう場面、よく覚えています。

ブリムリーさんは現在83歳だそうですので、結構お若い頃からおじいさん役を演じていたということですね。
けれども硫黄島を題材にしたこの曲のナレーションは、俳優としてではなく、彼が元海軍兵であるという理由で行っていらっしゃるとのことです。

日本を快く思っていらっしゃらないかも・・・と実は心配だったのですが、コンサート終了後に舞台裏で「ドウモアリガトウゴザイマス!」と日本語で話しかけてくださり、何だかほっとしました♪


硫黄島に攻撃を仕掛けた米軍は、圧倒的な兵力の差により、最長でも5日間で陥落可能だろうと予想していたそう。
けれども栗林忠道中将率いる日本軍は、苛烈な環境の下で建設した地下坑道に潜んで激しい抵抗を続け、1ヶ月以上も持ちこたえたのです。

栗林中将の並外れた統率力は、「敵ながらあっぱれ」とアメリカでも高く評価されているとのことです。


いつかやられてしまうだろうことは暗黙の了解であっても、できるだけアメリカ軍の士気をくじきたい、少しでも本土への進撃を遅らせたいと、命を懸けて戦った日本兵たち。
アメリカ兵も、彼らに畏怖と尊敬の念を抱かずにはいられなかったようです。

日米両軍とも、大切な祖国と愛する人たちを守りたいという気持ちは同じだったことでしょう。
本当は誰も人殺しなどしたくなかったはずですが、時代が彼らに他の選択肢を与えなかったのが悲しいですね。

摺鉢山に星条旗を掲げた6名のうち、生き永らえて本国に戻れたのは3名だけでした。
生存者のひとりジョン・ブラッドリー氏は「本当の英雄は、帰って来なかった男たちだ」と語ったそう。
この言葉が、曲のタイトルになったのでしょう。
 *なお、ブラッドリー氏とされた写真の兵士は実は別人だったことが、2016年に指摘されています。


勇敢な兵士たちとアメリカを称える壮大なフィナーレに、会場の全員が熱くなったと思います。
客席だけでなく、団員の中にも目頭を押さえていた人が・・・
私は日本兵たちのことも思って、やはり少し涙ぐんでしまいました。

いかにも日本人に見える私ですが、袋叩きには遭わずにすみ(笑)、駐車場でもたくさんのお客様が「素晴らしかった!」とわざわざ声をかけてくださって感激でした♪

月並みな表現となってしまいますけれど、今の平和を当たり前と思わずに心から感謝し、硫黄島に散った兵士たちの分まで、毎日を大切に過ごしたいですね。

そして、どんな理由があろうと、このような戦争はもう決して起こしてはいけません。


♪7月14日のサマーコンサートプログラム♪

     The Star Spangled Banner  アメリカ国歌
     Stars and Stripes Forever 星条旗よ永遠なれ
     Quiet Heroes: A Symphonic Tribute to the Flagraisers of Iwo Jima (Chris Brubeck)
       Ⅰ. Revelations
       Ⅱ. The Boys in the Picture
       Ⅲ. Iwo Jima
       Ⅳ. The Tour, The End
     Armed Forces Salute
     America the Beautiful


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4 件のコメント :

  1. 今回の記事に掲載されている「硫黄島」を読んで思い出しました。留学先の授業に日本の真珠湾攻撃が登場し"guilt"を感じた記憶があります。戦争と言えばミネソタのサベージと称する場所に戦争中、軍の情報局があり日系の兵士が活躍していたそうです。山崎豊子の「二つの祖国」に記載されています。ウィスコンシン州西部のCamp McCoyにも戦争中、日系人や太平洋上で捕虜になった日本兵が強制収容されていました。これについてはドウズ昌代の「ブリレアの解放者たち」と吉村昭の「背中の勲章」に詳述されています。日本は猛暑と熱帯夜の日々ですが、そちらはいかがですか。私は夏に弱いので10月10日ごろのようやく夏の終了を毎年楽しみにしています。近場の親戚たちとばかり遊んでいるのではなく夏はどこか遠方へ行かれるのですか。

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    1. 匿名さん、

      団員の中にも、ウィスコンシンで強制収容されていた日本人のひとりと、彼のご両親が親しかったという話をしてくれた方がいます。
      戦後には、頑張って事業を興したとか・・・
      周りの方々に尊敬されていたようで、同じ日本人としてほっとします。

      山崎豊子さんの「二つの祖国」を原作とした大河ドラマ「山河燃ゆ」は、結構しっかりと観ていましたよ。
      (沢田研二さんも出演していましたので♪)
      渡辺謙さんが栗林中将を演じた「硫黄島からの手紙」も、これを機会にぜひ観たいと思っています。

      やたらと蒸し暑い日本の夏は、私にはもう耐えられないかもしれません。
      湿気が少なくて楽なミネソタでさえ、夏が終わると何だかほっとするという人が多いです。
      8月には久しぶりにカナダに行く予定で、楽しみにしています。

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  2. こんにちは。私もアメリカ在住です。日本では戦争の話が出てきても、アメリカにやられた的な表現はアメリカに気兼ねして出てきませんが、アメリカにいるとアメリカ人は未だ日本にやられた的な表現が使われていて居心地悪く感じます。特に航空博物館とか。

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    1. りょうこさん、

      はじめまして。コメントありがとうございます。
      壮絶な戦いが繰り広げられた硫黄島で、日米による合同慰霊祭が行われた時には、
      双方の元軍人が互いに抱き合って涙を流したとのことです。
      戦後生まれのアメリカ人には、元敵国としての日本を恨む気持ちはないと思いますが、
      コンサート会場のお客様の中には、日本兵と戦った方のご家族がいらしたかも・・・
      演奏しながら、複雑な気持ちでした。

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