2022/10/05

黒人女性作曲家による交響曲が、童謡「赤とんぼ」っぽい

少し遅くなりましたが、日曜日に行ったコンサートについて。
今回から始まった今シーズンのコンサートは、あまりスポットライトを浴びていない作曲家の隠れた名曲にも注目しよう!という趣旨だそう。

前半は、この町で長年活躍しているブラス・クインテット Brass Quintet(金管五重奏)を中心に、オーケストラがバックを担当しました。
このメンバーはオーケストラの団員でもあり、ホルンの女性は何と43年間も在籍しているとのこと!


今回演奏したのは、ジュリアード音楽院の教授 Eric Ewazen 氏の作曲による、Shadowcatcher というとても魅力的な曲です。

20世紀の初め、ある写真家がアメリカ各地を旅して、ネイティブ・アメリカンの古くからのライフスタイルを何万枚も写真に残したそう。
近代文明に飲み込まれて、今では消滅しつつある風景です。
Eanzen 氏はその写真によってインスピレーションを受け、4パートから成るコンチェルトを作曲しました。

驚いたのは、作曲家ご本人がニューヨークからこんな小さな町にわざわざ来てくださり、曲が始まる前に、愛情込めてご自分の作品について語ってくださったのです。
まるで、可愛い孫の写真を自慢するおじいちゃんみたいに・・・
これでは、絶対に失敗できないわ。。。

ブラス・クインテットのメンバーは1年かけてこの曲を練習したそう!
きらびやかで艶やかな音が会場の隅々まで満たされ、本当に素晴らしい演奏でした。
YouTube には、ブラス・クインテットと管楽器のバージョンしか見つからず、オーケストラバージョンの自宅練習はちょっと戸惑いましたけれど、弦楽器もみんなよく頑張ったと思います。

若い頃によく聴いていたピンク・フロイドなどの「ちょっと怪しい雰囲気なのだけれどクセになる」みたいな部分もあって、なかなか楽しかった!
曲の最後は明るくハデにわ~っと盛り上がり、客席も大興奮だったようで、スタンディングオベーションをいただきました。
作曲家も大喜びだった様子・・・指揮者もほっとしたことでしょう♪




そして後半は、フローレンス・プライス Florence Price という作曲家(1887-1953)の交響曲第4番でした。
彼女は4つの交響曲を作曲していますが、第1番は1933年にシカゴ交響楽団によって演奏されました。
アフリカがルーツでしかも女性である作曲家の作品が、アメリカのメジャーなオーケストラで起用されたのは、画期的な出来事だったのです。

ただし、そのコンサートのタイトルが "The Negro in Music" とされてしまうなど、興味本位で侮蔑的な部分もあったようです。
普通なら心が折れてしまいそうですが、彼女は決して負けることなく、その後さらに3つの交響曲を書き上げました。

その他にも、ヴァイオリン協奏曲ピアノ協奏曲合唱曲室内楽曲などが残っています。
どれも、今まで知らなくて損した・・・と思ってしまうような、心に沁みる作品です。

今回私たちが演奏した「交響曲第4番」は、プライスが1945年に作曲したものですが、残念ながら生前に演奏されたことはなかったそう。
そのスコアは、他の楽譜と共にガレージに積まれていたのが死後に発見され、2018年にようやく楽譜出版と初演が実現し、翌年にレコーディングも行われたとのことです。

私だけでなく、アメリカで生まれ育った他の団員も、彼女について何も知りませんでした。
たまたま指揮者が見つけて今回のコンサートで演奏することになったのですが、そうでなければ一生知らずに終わっていたかもしれません。

お客様も大感動だったようで、後半に演奏したこの曲の最後でも、またまたスタンディングオベーションをいただいて光栄です♪



この曲は、4つの楽章全てがそれぞれ個性的な色合いなのですが、第2楽章の初めは何だか日本の田舎の風景を思い出させるような、とても懐かしい雰囲気!
(上の動画では、第2楽章は15:12より)

それもそのはず、出だしの部分で使われている音階が「赤とんぼ」「夕焼け小焼け」などと同じなのです。
「ヨナ抜き」と呼ばれる独特の音階で、4番目と7番目の音(ハ長調なら「ファ」と「シ」)を使っていません。
童謡や民謡によく使われているので、私たち日本人にとっては体にしみついている感じです。(他にも「ぞうさん」「こいのぼり」など、色々思い付きます)

ヨナ抜きは日本独特の音階というわけではなく、世界中の民謡で使われてきた素朴で郷愁を誘うような音の配列です。
たとえば「蛍の光」もヨナ抜き音階で、日本の歌だと疑わない人が多いですが、原曲はスコットランドの民謡とのこと。

日本では「家路」というタイトルで親しまれている、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章の冒頭も、この音階です。
ドヴォルザーク(1841-1904)も、アメリカで活躍した頃に黒人霊歌先住民の音楽の影響を受けていますので、フローレンス・プライスの曲との共通点があるかもしれません。

ガーシュインバーンスタインコープランドのように、プライスも、偉大な作曲家のひとりとしてアメリカの音楽史上に残りますようにと願っています。


♪10月2日のコンサートプログラム♪

     Shadowcatcher: Concerto for Brass Quintet
      「シャドウキャッチャー:ブラス・クインテット協奏曲」 (Eric Ewazen)
       Ⅰ. Offering to the Sun
       Ⅱ. Among the Aspens
       Ⅲ. The Vanishing Race
       Ⅳ. Dancing Restore an Eclipsed Moon

           Intermission
       
     Symphony No. 4 in D minor 「交響曲第4番ニ短調」 (Florence Price)
       Ⅰ. Tempo moderato
       Ⅱ. Andante cantabile
       Ⅲ. Juba Dance
       Ⅳ. Scherzo

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